理事長挨拶

日本摂食障害学会理事長 安藤 哲也

 2024年1月に日本摂食障害学会の理事長に就任しました。永田利彦前理事長の後任として、摂食障害領域の学術研究の推進と医療の充実に全力を尽くす所存ですので何卒よろしくお願いいたします。

 日本摂食障害学会は1997年に日本摂食障害研究会として発足し、2005年に学会として発展し、現在は約650人の会員を有します。当学会は医師を含む多岐にわたる専門職種から成り立っており、医師も精神科、心療内科、小児科、内科、産婦人科など多様な専門領域からなります。また、臨床心理士/公認心理師、栄養士/管理栄養師、看護師、教員、養護教諭、作業療法士、精神保健福祉士、歯科医師、学生なども含まれ、多様性を重視してきました。

 摂食障害は遺伝と環境が複雑に絡み合う多因子疾患であり、精神と身体の両面の、心理社会的背景を含む研究と対策が求められています。病因や病態解明、治療法の開発には学際的な研究が求められ、予防から回復に至るまでの包括的な連続したケアを実現するためには、多職種の連携が不可欠です。今後もさまざまな分野からの参加を促進し、自由に活発に議論が出来る場を作り、研究や医療・支援の質を向上させていくことを目指しています。

 摂食障害の学術論文数は急速に増加しており、世界的に研究が活発な分野です。しかしながら、摂食障害に関する知見の多くを海外の研究に依存しています。日本国内での研究、データ、エビデンスの充実が必要であり、学術集会や学術誌の水準向上、学会のネットワークを活用した研究の企画や国内外との学術交流の促進が求められています。

 摂食障害は有病率や死亡率が高く、長期化傾向があり、生涯にわたって健康や心理社会的機能への深刻な影響をもたらす病気です。少子高齢化が進む中で、多くの子供や若者が体重や体型、食事に関する問題で苦しんでおり、社会にとっても損失です。学会としては、予防方法の研究を推進し、やせ礼賛社会への問題提起を継続していくことが重要です。

 摂食障害に関する研究や医療には限られた人的・経済的資源しか投じられておらず、これが研究者や医療従事者の活動を制約しています。アメリカ精神医学会の報告によれば、摂食障害の研究予算が他の精神疾患に比べて極端に少ないことが指摘されています。この状況を改善し、摂食障害に対する資源を増やすことも、学会の重要な役割です。

 摂食障害を診療する医療機関や医療従事者の不足、適切な治療を受けられない患者の問題は依然として深刻です。摂食障害について学びたいという医療従事者も増えています。学会としては、新しい治療ガイドラインの早急な完成を目指し、教育・研修システムの整備、エビデンスに基づく標準的治療法の普及・実施、コ・メディカルの参加促進、診療報酬の改善、効果的な治療法の研究開発に取り組んでいます。これらの取り組みを通じて、摂食障害患者への医療サービスの質とアクセスの向上を目指します。

さまざまな課題に対処するために、現在の日本摂食障害学会の力不足を認識しており、会員数の増加や経済的基盤、組織の強化を目指しています。学会の法人化に向けた議論を開始するなど、運営の効率化と資源確保の改善に努めています。

 日本摂食障害学会は今後も社会の要請に応えて、摂食障害の学術研究の発展と国民の健康増進に寄与できるよう、学術的活動や普及啓発活動、国際的な情報発信に取り組んでまいります。今後とも皆様のご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。