摂食障害は「おいしく食べる」という本能に根ざし文化に裏付けられた人間の本質的行動が障害されるという不思議な病気である。この小論集は、摂食障害の精神科的治療について若手を中心として書いてもらい、今後の摂食障害の精神科的治療の普及と向上を目標とした。
  摂食障害は、思春期の女性が食べなくなり痩せていくという形で始まることが多く、そこに関心が向くことが多いが、食行動の異常は大きな広がりを持ち、様々な精神疾患との相互関係を持っている。初期症状である拒食や過食は、適切な治療を受けると食行動は正常化し精神的にも体重も健康水準に戻る。初期症状の治療では、精神科も心療内科もほぼ同じ治療を行う。
  しかし、過食が始まり、自己誘発嘔吐や下剤乱用を始めると食行動異常は遷延化し、同時に様々な精神科の疾患が姿を表してくる。摂食障害に伴う精神科疾患は、うつ病、社交不安障害、強迫性障害などであるが、食行動異常と他の精神疾患が重なると病像は複雑化してくる。摂食障害と併存する精神疾患のどちらが中心的な問題なのかがわからなくなることすらある。また摂食障害の患者さん自身も食行動異常を隠し、併存する精神疾患の訴えで精神科に受診することも多いのである。摂食障害の治療において信頼関係ができないときには、底にあるパーソナリティ障害の存在も浮かんでくる。回避性、自己愛性、境界性、強迫性パーソナリティ障害などである。アルコール依存や、覚せい剤依存も伴うこともある。
  摂食障害に根本的治療はまだ見つかっておらず、薬物療法の効果も限定的なので、精神科治療も様々な治療法を組み合わせて行うことになる。摂食障害は初期の治療で回復しないときは、短期間の回復ではなく緩やかな回復を目指し、本人も家族も治療者も、理解しあい協力しながら粘り強く治療を続ける必要がある。以下の小論に、摂食障害の全体像と治療のアウトラインが示されている。