摂食障害は、もはや稀な疾患ではない。しかし難解な病態や困難な治療の故に、医療機関の受け入れは必ずしも良好ではない。精神科医不足や総合病院精神科の多忙さを勘案すると、患者や家族は、治療者や、治療者の時間、治療機関を獲得するのに多大な労力を費やさざるを得ないことが多いのが我が国の現状である。
限られた治療資源を有効に使う場合、全体として考えると、入院より外来の方が効率は良い。ただし、両者は連続した治療戦略の部分としてとらえるべきであろう。入院治療の具体的解説は別項に譲るが、身体的な問題が重大で救命を優先させる場合には、行動制限と栄養管理を用いた入院治療は不可欠である。これに対し、身体的な問題が明らかであっても、生命の危機に直面していない場合、入院適応の決定は、精神症状の程度や内容によりケースバイケースで為される。
入院の可否や治療の目標を決めるにあたり、病期やそれまでの経過は重要である。比較的急性の場合 - 例えば、1年前体重60kgあった10代の患者がその後摂食障害になり、現在34kgで歩行も困難だとすれば、入院での行動管理と栄養管理は適切な選択肢である。また、栄養改善と共に精神的な問題の解決、さらには摂食障害の治癒を目指すことも妥当な場合がある。しかし、比較的慢性の場合 - 例えば、10年以上にわたり体重30kg前後であるが、結婚生活も軽作業の労務もできている患者では、入院を勧める状況にはない。本人との治療契約の中で、外来治療の目標は、「普通の気分になりたい」と思えるように力づけることや、「普通に食べたい」と思う気持ちを維持させることから、骨粗鬆症予防や付随する心身の病態への対症的な治療まで、様々である。
精神療法には複数の手法があるが、底流にあるのは支持的な関わりである。この場合の支持とは本人の心情への配慮、すなわち、治療等で生ずる心身の変化を本人がどう受け止めているか、常識的感覚にとらわれず本人の主観に寄り添って理解しようとする態度のことであると考える。
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