摂食障害になる人の心の根底には、もともと幼い頃から実存的危機(自らの存在にまつわる危機)が存在しますが、児童期頃までは本人自身もそれに気づかないことが多いものです。しかし、思春期に入って自立を巡る不安が台頭する中で、例えば「体型をからかわれる」などの一見些細なことなどを契機として危機が露呈します。その危機は自分自身の崩壊や強い抑鬱状態をもたらすため、本人はその危機への直面を回避しようとし、その一環として摂食障害という病像が現れます。
 例えば、「価値が高い痩せた体を持っている」「頑張っている」という自己愛的な肯定感や、痩せるための過活動が醸し出す「動感覚」に溺れ込んだり、摂食量減少による苦痛や緊張を倒錯的に「自己確認のための感覚」として利用したりといった何らかの「支え」「取っ掛かり」を得て秩序を維持しようとしたり、実存的危機を文字通り体の外に「排泄」するかのように自己誘発性嘔吐や下剤濫用に走ったりします。
 しかし、それらの方策はいずれも実存的危機の根本的な解決にはつながらないため、患者はそのような営みを自転車操業的に延々と続けるしかなくなり、さらにその営みが限界に達して秩序の動揺が決定的になると、患者は自傷・自殺企図のような自暴自棄に走ってしまうことも珍しくありません。
  摂食障害の力動的精神療法は、上記のような摂食障害の生じる力動・機制(メカニズム)を踏まえ、根本的な解決を目指すものです。即ち、患者の問題が食行動という表面的な水準にあるのではなく、実存的水準にあることを関与者(治療者や家族など)がしっかりと見据え、動揺する患者を前にして関与者が患者に翻弄されることなく実存的安定の何たるかを示すことが基本方針です。関与者の安定性が触媒となって患者自身が「自らの存在が実存的に許されている」ことを体験することが、患者の実存的危機からの脱却すなわち摂食障害の治癒をもたらすのです。