1. 摂食障害と解離

解離とはつらい体験をした時などに意識状態が変わり、過去の記憶を失ったり、現実感がなくなったり、場合によっては人格が変わってしまったりする精神症状である。過食症状について患者が「スイッチが入ったように」あるいは「人が変わったように」過食をすると表現することがあるが、これは解離という精神症状と関連があると言われている。過食が単に食欲の問題というだけではなく、つらい気持ちを紛らわせるために生じる解離の要素を持っていると考えると、過食の予防のためには患者の背景にある日常のつらさや不安感にいかに対処するかということが重要である。

2. 摂食障害と自傷

 摂食障害患者に、自分の手首や二の腕、太ももなどを刃物で切ってしまうという自傷行為がしばしばみられる。逆に、自傷を行う人の約半数が、現在摂食障害であるか、かつて摂食障害であったと言われている。自傷は自殺を目的としたものよりも、目の前のつらい気持ちをやり過ごすためのものが多い。しかしながら、繰り返される自傷は自殺のリスクを高めるという報告もあり注意が必要である。
自傷は過食嘔吐が習慣化している患者に多いと言われている。が、過食や自己誘発嘔吐に身体的苦痛が伴い、そのことが心のつらさを紛らわせる側面もあることから、過食・嘔吐自体に自傷的要素があるとも言える。心のつらさを紛らわすという点で、過食・嘔吐・自傷は一見患者にとって利益になっているようにみえるが、どうして今つらい状況にあるのかという現実をみつめたり向き合ったりする機会を妨げることにもなり、患者が建設的な問題解決なしに過食・嘔吐そして自傷を繰り返すという悪循環に陥ることになる。そのため、回復には様々な工夫と粘り強い取り組みが求められる。

3. 解離や自傷への対処

 自傷をする人が「切っているときに痛みを感じない」と述べるように、自傷をするときに解離状態を伴うことが多く、また逆に「血を見て我に返ってホッとする」など自分に痛みを与えて現実感を取り戻し、解離状態から脱するための自傷もある。いずれにしても解離と自傷は関係が深く、今まで述べた様に摂食障害との関連も深い。
これら解離症状や自傷行為は、拒食や過食・嘔吐と同様、患者が現在を生き抜くための苦肉の策であり、単にそれらを禁止しても解決にはつながらない。かといってそのまま放置していても、やはり死に近づく危険がある。彼らの自己破壊的行為の背景にある「生きつらさ」を周囲の人たちが理解し、本人と一緒に乗り越える工夫をしていくことが、結果的に本人を孤独から救い解決の光を与えてくれるはずである。