1.どんな状態になるのか?
 拒食タイプの典型例では、体重や体型に強くこだわり、やせ目的のダイエットや激しい運動がエスカレートします。本人は危機意識に乏しく、適切な食事や治療を拒み、さらなるやせと体重減少を望みます。月経は止まり、体力が低下しているにもかかわらず活動的です。次第に、健康的な心身の状態を維持できなくなります。一方過食タイプでは、食物への欲求が抑えきれず、「むちゃ食い発作」と呼ばれる過食に苦しみ、それを浄化するための意図的な嘔吐や下剤乱用(排出行為)が繰り返されます。自分の容姿を嫌悪し、体重のわずかな変化に悩まされ、憂うつで不快な気分に支配されます。他の人に知られないよう明るくふるまい、自然な感情を抑えこむ傾向もみられます。こうした摂食障害の背景には、強い完ぺき主義や自己評価の低さ、強迫(こだわり)、衝動性、対人過敏、性の問題など、多様なメカニズムが関与しています。

2.どうやって診断されるか?
  表に示した診断基準を手掛かりに、心理や行動、身体状況を把握します。典型例は、神経性無食欲症と神経性大食症に分類されますが、しばしば移行します。初回面接ではやせ願望や肥満恐怖を語らず、自らも意識していない事例があります。家族や周囲による行動観察も参考にしつつ、信頼関係を構築する面接を通じて、隠れたサインを確認します。実際は、「身体イメージ障害」項目ひとつとっても、その程度に微妙な差があります。臨床上は、基準をすべて満たさない非定型タイプ(EDNOS)を、適切に診断・支援することが重要です。詳しい臨床検査以上に、成長曲線やバイタルサインの把握が大切です。

3.注意すべき点は何か?
るいそう(体重減少)や嘔吐の原因となる身体疾患、食行動異常を呈する精神疾患を、除外・鑑別する必要があります。違法薬物使用・依存や、小児の場合は虐待の潜在に注意します。低栄養による2次的合併症(産婦人科、内分泌系、消化器系、骨、歯科、脳神経系含め)や、うつ病・不安障害などの併存も念頭に入れましょう。

表:アメリカ精神医学会による摂食障害診断基準のまとめ

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307.1 Anorexia Nervosa 神経性無食欲症
1. 正常体重の最低限、またはそれ以上を維持することの拒否(期待される体重の85%以下が続くような体重減少など)
2. 体重が不足している場合でも、体重が増えること、または肥満することに対する強い恐怖
3. 自分の体重または体形の感じ方の障害、自己評価に対する体重や体形の過剰な影響、または現在の低体重の重大さの否認
4. 初潮後の女性の場合は無月経(月経周期が連続して少なくとも3回欠如)
病型)
  Bing eating/purgingむちゃ食い排出型: 定期的なむちゃ食いや排出行動(自己誘発嘔吐、下剤や利尿剤などの誤った使用)
  Restricting 制限型:規則的なむちゃ食いや排出行動がない
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307.51 Bulimia Nervosa 神経性大食症
1. むちゃ食いエピソードの繰り返し(以下の2つで特徴付けられる)
  (1) 他とはっきり区別される時間帯に(例えば2時間以内)、ほとんどの人が同じような時間帯に同じような環境で食べる量よりも明らかに多い食物を食べること
  (2) そのエピソードの期間では、食べることを制御できないという感覚(食べるのをやめることができない、何をどれほど多く食べているかを制御できないなど)
2. 体重の増加を防ぐために不適切な代償行動(浄化)を繰り返す(自己誘発性嘔吐/下剤、利尿剤、浣腸、他薬の誤った使用/絶食/または過剰な運動)
3. むちゃ食いおよび不適切な代償行動は、少なくとも3ヶ月にわたって平均週2回ある
4. 自己評価は、体形および体重の影響を過剰に受けている
5. 神経性無食欲症のエピソード期間中にのみ起こるものではない 病型) l Purging 排出型:定期的な排出行動あり l Non-purging 非排出型:排出行動以外の代償行為(絶食や運動)
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307.50 EDNOS 特定不能の摂食障害
1. 定期的に月経があるが、ほかは神経性無食欲症の基準をすべて満たす
2. 現在の体重は正常範囲内にあるが、著しい体重減少と神経性無食欲症の基準を満たす
3. むちゃ食いと不適切な代慣行為の頻度が週2回未満、またはその持続期間が3ヵ月末満、ほかは神経性大食症の基準を満たす
4. 正常体重の人が、少量の食事をとった後に不適切な代慣行動を定期的に用いる
5. 大量の食事を噛んで吐き出すということを繰り返すが、呑みこむことはしない
6. むちゃ食い障害:むちゃ食いや気晴らし食いエピソードを繰り返すが、定期的で不適切な代償行動はない