<背景>
  自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)は社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像性の障害(こだわり)の3つを特徴とする障害です。 以前からASDの子どもは食べ物へのこだわり、好き嫌いなどの食事に関する偏りが高頻度に認められるとして報告されていました。一方、1980年代より摂食障害の食事へのこだわりがASDのこだわりと類似していることから両者の関連性に注目されるようになりました。さらに近年日本では「重ね着症候群」(衣笠、2004)という概念が提唱されたこともあり、精神疾患を発達障害の視点から見直すようになったことも両者の関連性への関心を高めました。

<臨床的特徴>
  臨床的には、摂食障害患者の食事や体重への強いこだわりはASDの特徴と類似します。さらに、摂食障害患者はこだわりだけでなく情緒認知の障害も低体重の時期に限定して認められると報告されています。そして、近年は神経心理学的研究により、実行機能や視空間機能の障害が共通して認められることが報告されています。このように両者に共通点は多いのですが、ASD類似の状態は飢餓の影響も考えられるため診断には注意が必要です。合併を診断するには、食行動以外の領域でのこだわりや、社会性・コミュニケーションの問題が摂食障害発症以前の幼少期より存在することを確認する必要があります。実際、摂食障害の10~20%程度がASDを合併しているといわれています。 特にアスペルガー障害などの高機能のASDの場合は、それまで障害が見過ごされ、摂食障害の発症後に初めて発達の問題に気づかれることが多くあります。

<治療>
  臨床現場では、特に成人のASDへの対応に苦慮する場合が少なくありません。ASDに摂食障害が合併した場合、治療は通常の認知行動療法に加えて、視覚的情報の利用、具体的な説明の繰り返し、具体的な対処スキルの教育などのアプローチが有効であったとする報告がありますが、個人差もあることから個々の患者の特性に合わせた治療工夫が求められます。