発症のきっかけとして、また日々の異常食行動を誘発する引き金として、摂食障害の背景には社会適応の困難さや対人関係の持ち方の不安定さが大きく関与している。したがって摂食障害患者におけるソーシャルスキルの獲得は、社会復帰の目的だけではなく、実は症状改善や再発防止のためにも必須であると言える。それにはできるだけ現実の日常生活場面に即した地域社会という環境下での訓練が必要であろう。集団での食行動の正常化を図り、疾患を抱えた自分への洞察を深めていくための疾患教育を受けたり対処の仕方を学んだりする他、作業参加や奉仕活動によって、今できる形での社会人としての役割も担う時間ともなる。さらに症状から如何に抜け出すか、そのためにどのような取り組みをするのかを考える当事者だけのクローズドミーティングも、アルコールや薬物依存のような嗜癖疾患としての側面を持つ本症には重要なプログラムである。それは同じ疾患を抱えた者同士が思いを分かち合う、個人や医療や家庭では提供できない貴重な時間である。
  しかし冒頭に述べたように、感情の適切な認識と処理に難のある本症の場合は、回復のモデルとして羨望していた対象にも、関係の深まりと共に次第に競争心や妬み、蔑みなどが生じ始めることが圧倒的に多い。
  また、かつての自分を一掃するかのように、病気についての話題を拒み始める者もいる。このようスキルの乏しさゆえ、内面での処理も場面での適応的な在り方も持っていない当事者だけで集合すると、回復のための集団が、歪んだ自己愛の修羅場と化してしまう可能性が非常に高い。したがって安定した運営を行うためには、現状では疾患を熟知した健常者スタッフの援助が不可欠である。いずれそれらをコントロールできるだけの成熟したリーダーが生まれてくると、自助グループ主導による、精神的な成長を促す生活訓練の場としての地域作業所が誕生するのではないかと大いに期待したい。